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2016年8月18日 (木)

検証・学歴の効用

検証・学歴の効用 濱中淳子 勁草書房

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 産官学ジャーナルの連載「工学系卒業生のキャリア形成()()()」が面白かったので、濱中淳子氏の著書を読んでみた。

 この本は、客観的なデータかから、学歴の経済的な効用である「所得」と学歴の関係を論じている。 これまで働いてきた経験から主観的に比較してみた。

○「所得」による評価

 この本や産学官ジャーナルの連載は、所得に影響する要因についての検証、考察である。つまり、従属変数を「所得」として「所得」に影響を与える要因(独立変数)を調査している。 「所得」は客観的で分かり易い指標ではあるが、大学教育の価値や学歴の効用を「所得」で評価することについて違和感はある。

 このことについては、濱中淳子氏も答えを用意していて、

所得が高まるから大学に行くという判断は短絡的であり、多面的に学歴を考える必要がある。

    ~中略~

なによりも人生を豊かにする大学の効用は、経済的側面ではない。肯定的であれ、否定的であれ、大学の経済的効用にのみとらわれてはならない。

という。

 「成果」をもたらす度合を「人材価値」定義すれば、「人材価値」と「所得」とは正の相関があると予想できる。「成果」が会社・組織によって異なっていても、「所得」は「人材価値」を測る指標に使えるのではないだろうか。 注意が必要なのは「所得」は、あくまで指標であることである。さもなければ、「所得」の多寡で人の価値を判断することになる。 また、「人材価値」は雇用側が被雇用者を評価する指標であって、非雇用者の労働における満足度を示していないこにも注意が必要だ。

○自己学習

 自己学習能力の有無が「所得」(人材価値)に影響するという結論は、経験と合致する。

 技能を扱う職業では知識(知っていること)の他に技能(できること)が重要だ。しかも、技能の巧拙は一目瞭然だから、コミュニケーション能力によるサポート(ハッタリ)は通用しない。 技術(技能)職において自身の技術(技能)を向上させ、人材価値を向上させるためには、自己学習能力の他に自己訓練能力が不可欠だ。

 濱中淳子氏は、高卒と大卒の違いを自己学習能力の有無と結論付けている。※1

 あくまで主観ではあるが、20年くらい職場の技術研修の講師を務めている経験ではこの結論は実感できない。

 今働いている部門での学歴は、15年くらい前は、高卒、高専、専門学校、大卒と多様性があった。 当時満足なOJTは行われず自己学習は業務に不可欠だったから、自己学習ができる人が研修に参加していたという事情が影響しているのだろう。

 90%以上が大卒になった最近は高卒の参加者がいないから、最近の高卒における自己学習できる者の割合は分からない。一方大卒において自己学習できる者の割合は多いとは思えない。

 今の勤務先は、自己学習できる者を選別しているので、自己学習能力を持った者の割合は多い。学歴は、高卒、高専、専門学校、大卒と多様だ。 技術(技能)職という特殊性はあるものの、自己学習能力は後天的に獲得したものより、先天的な性質による影響が大きいような気がする。

 ところが、知人曰く大学で学ぶこと自体が自己学習のようなものだから、大卒の方が自己学習能力はあるのではないかとのことである。

 知人の指摘が正しいなら、先天的な性質により自己学習能力を獲得した者は別として、それ以外の者は環境によるのではないだろうか。

 つまり、大学という、自己学習を求められる環境学んだことにより自己学習能力を身につけたが、その後就職した職場で自己学習が求められなかった場合には、自己学習能力を発揮する必要が無くなり、自己学習能力が無いように見えるのではないだろうか。

 彼らは自己学習を求められず「言われたことだけやれ」と言われているのかもしれない。

読み直すと論点がずれている。
結論は、大卒は自己学習習慣が所得に影響を与え、高卒は上司との対話が所得に影響を与える。であって、高卒と大卒において自己学習習慣を有している者の割合を論じたものではない。(2016/8/19)

○専門学校

 専門学校卒要資格職で就職した経験から、「所得」において高卒と差がないというのは、経験と合致する。

 興味深い分析結果は要資格職では男女を問わず高い自立性と適合性を持っていることである。
自立性を測定に用いる質問は

  • 仕事の壁は、自らの力で越えようとしている
  • 仕事の結果を自分で負うことの難しさを実感している
  • 今、自分が身につけなければならない能力・知識が何か、分かっている
  • 仕事の責任を増やすことが、やりがいにつながっている
  • 分野や時代を問わず、学べる人からは常に、学んでいる
  • 自分の強みを十分に生かしながら仕事に取り組みたい

適合性の測定に用いる質問は

  • これこそ自分の仕事だと思うものがみつかった
  • この仕事をしている自分がとても好きだ
  • 仕事に十分な独自性をはっきしている
  • 自分の道は自分で選択している

 これらの質問に回答してみたら調査結果と同じく高い得点が得られた。自分と同じ特性(気質)を持った人は、話してみると簡単に分かる。

 このブログに「技術者になる決心」について書いた。
 最近の高学歴化に伴い、技術者になる決心をしないまま職に就いている者が増えたのではないかという指摘である。

 最近技術者になる決心をしていない者が増えたと感じるのは、特性の異なる人が増えたこともさることながら、自分と同じ気質を持つ専門学校卒要資格職での採用が減ったことに起因しているのかもしれない。

 技術者になる決心を、自分の特性(気質)を基準に論じてはいけないということか。

○高専

 最近高専との関わりがあるので感心があるのだが、この本には高専卒の分析がない。

 専門学校は、高校卒業時の進路として大学との選択になるから、分析しやすいのだろう。
 ところが最近の高専では、卒業後進学するケースも増えていると聞く。これらの人は統計上大卒に含まれていることになるので、分析できないのだろう。

 これまで、多くの高専卒や高専-大卒の人と仕事をしてきた経験では、大卒と高専卒(編入大卒)の人とは異なるように感じる。

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 自己学習能力は学歴に関係なく重要だと思う。

 自己学習を求められなかった学校を卒業した人も、今働いている職場で自己学習を求められていない人も、自己学習能力は重要だ。目先の知識や所得より優先すべきだと思う。


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