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2017年7月 8日 (土)

モラル <ルールとは違う>

多発する中高生のサイバー犯罪-誰でも起こせるのか? 金子 清隆 JIJICO 2017/6/21

 国内初のランサムウエア作成容疑で中学生が逮捕された事件についての論評。

金子清隆氏はITモラル教育の必要性について

ITモラル教育の必要性

インターネット上にはサイバー犯罪に利用できるツールや情報が散在しており、未成年でも入手可能なので、年齢に関係なく誰でもサイバー犯罪を行えます。
最近ではこうしたツールやサービスを取引できるアンダーグラウンド市場も存在し、サイバー犯罪を行う技術的ハードルは低下しています。

サイバー犯罪は物を盗む、人を傷つける、といった物理的行為が伴わないため、犯罪を行うという意識が希薄になりがちです。
特に未成年の場合はその傾向が強いでしょう。
現代の子供たちは幼い頃からインターネットに触れていますが、サイバー空間での不適切な行為を教わったり、止められたりする機会はありません。
むしろ仲間の中では「かっこいい」と称賛されることもあります。
現在、学校ではIT教育に力を入れていますが、知識やスキルだけではなく、サイバー空間でやってはいけないことなどのITモラルに関する教育にも力を入れるべきだと考えます。

と、述べておられる。
ITモラルの教育に注力すべきという金子 清隆 氏の主張には賛成である。重要なのは各論で、IT業界に身を置く者としてどう関わるのかが重要だと思う。

 本筋ではないところに引っかかる悪い癖で、どうしても気になったのは最後の

サイバー空間でやってはいけないことなどのITモラルに関する

という部分だ。

ルール
やってはいけないこと → 法、規則 → 強制力あり
モラル
やらなければいけないこと → 道徳、倫理、規範 → 強制力なし

ではないだろうか。

 この記事の元になった事件は、刑法168条の2,同条の3「不正指令電磁的記録に関する罪」(不正指令電磁的記録作成・保管)だから、法(ルール)に違反している。モラルの問題ではない。

 また、法令順守とモラルは異なる。
例えば「不正指令電磁的記録に関する罪」は2011年の刑法改正で新設されたので、2011年まではウイルスを作っても罪には問われなかった。 つまりルール違反ではなかった。
しかし、ウイルスを作ったり使ったりするのは2011年以前からモラルには反した行為だ。

 日本人はモラル、ルール、マナーの区別をしないで議論しているのではないだろうか。
(因みに、交通ルールはマナーと区別しないで議論されることが多いようだ。)

モデル

モラルについて、↓のようなモデルを考えてみた。

Photo

 モラルとは、「あるべき理想の姿があって、その理想に近づこうとすること」という解釈だ。
理想から離れてるにつれてモラルが低くなる。これ以上理想と離れてはいけないところにルールがある。そして、ルールは明文化された法や明文化されない掟などの強制力を持つことが多い。

 人には理想(モラルの中心)から離れる力が働いていて、自然にしていると、モラルは低くなり、ルールをいつか犯してしまう。(黒い矢印) 一方で、人の意識には理想(モラルの中心)に向かう力(白い矢印)があって、2つの力がバランスしたところが現在のモラルだ。

 モラルが高い人やモラルが高い国というのは、2つの力が理想に近いところでバランスしている。モラルの低い人やモラルが低い国は理想から離れたところでバランスしているということになる。

理想(モラルの中心)

 ルールは理想からこれ以上離れてはならない境界だ。人が集まったときモラルがバラバラでは社会生活を営む上で問題があるので、理想からの許容範囲を決めたものだ。 重要なことは、この境界は人が決めたということである。したがって、時代や、社会情勢によって変わる。(ウイルス作成罪のように)

 モラルの中心にある理想は人によって異なる。
一神教の人たちは「神の教え」があるのでモラル中心は明確で、個人によるバラつきも少ない。理想を追い求める、矢印(白)の方向も明確だ。

 一方、日本人は、一神教でない人が多いので「神の教え」のような明確な中心がないので、中心はボヤけている。 理想を追い求める矢印(白)の方向は、中心がぼやけているので方向が定まらない。ルールは比較的明確なので、矢印の方向はルールを目指してしまう。

Photo_2

日本人はなぜモラルとルールが区別できないか

 このモデルで考えると、一神教の人たちは明確なモラルがある。一神教の人たちが日本人を見るとモラルが無いように見えるのではないだろうか。 しかし、日本人にもモラルはある。ルールから内側にかけてグラデーションがかかったようで見えにくいだけだ。この問を考えたのが新渡戸稲造で日本人のモラルを武士道だといった。

 全ての日本人が新渡戸稲造のように時間をかけて考えているわけではないから、多くの日本人はモラルの正体がよくわからない。 その結果、見えやすいルールについて論じるのではないだろうか。そして、ルールを守ること(法令順守)もモラルとして論じてしまう。

「ITモラル」(サイバー空間におけるモラル)

 「ITモラル」があるとすれば、汎用的なモラルの一部分だろう。モラルは中心に近づけば近づくほど抽象的になるので、「ITモラル」があるとするとルールの境界付近で、ルールと区別できないのではないだろうか。その結果、「ITモラル=IT技術を悪用してはいけない」になる。

 つまり、「ITモラル」が必要と言っている人たちが教えたいのは「モラル」ではなく「ルール」ではないか。ならば素直に「ルールを守りましょう」といえば良いのではないだろうか。

 交通安全教育で「交通ルールを守りましょう」と言うように「パソコン・スマホを使うときのルールを守りましょう」、「ネットを使うときのルールを守りましょう」といえば良いのではないだろうか。

 「ITモラル」は、基本的には現実空間の一般的なモラル(道徳)をサイバー空間に置き換えればよいと思う。 置き換えるときに技術的な知識は必要だが、サイバー空間用のモラル(道徳)を考え直す必要はない。

 サイバー空間はIT技術が不可欠だ。技術を使っているからモラルが低下した際の影響は現実空間より大きい。

 例えば、「陰で悪口を言わない」は現実空間ではモラルだ。しかし、「SNSや掲示板で悪口を匿名で書かない」はサイバー空間ではルールになる。

 「他人の個人情報を話す」は現実空間では問題にならなことが多い。しかし、「他人の個人情報を掲示板に書く」のはモラルに反する。

セキュリティ技術者に求められるモラル(倫理)

 セキュリティ技術者育成に関わっておられる方は皆さん倫理は重要と仰るのだが、聞いてみると「やってはいけないことを教えなければならない」と仰る。これはルールだ。

 技術者には技術者特有の倫理(モラル)が必要だ。セキュリティ技術者には技術者としてのモラルの他に、弁護士や医療関係者など他人の秘密を扱う者に求められるモラルが必要だ。

 「ルールを守りましょう」など次元の低い議論がまかり通るのは、ITに長けた者はルールを犯す者という意識があるのだろう。しかしセキュリティ技術者においては謂れの無いことだ。

自称識者に求めること

 自称識者の諸氏にはモラルとルール、規則と倫理はきちんと分けて説明してもらいたいものだ。


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