「草の根DX」はDXでもなんでもない <でも、減らないかも>
「利用部門のわがまま」と書いたことは謝罪する、だが草の根DXは断じてダメだ
木村 岳史 日経クロステック/日経コンピュータ (2022/02/07)
木村 岳史氏は
日本企業はむしろDXに手を出すべきではないのかもしれない。傷口を広げるだけだからだ。特に利用部門の現場にDXを丸投げするのは絶対にやめてくれ。「草の根DX」などというふざけたネーミングが流行していると聞くが、その実態はローコード開発などによって「現場のお役立ちデジタルツール」をつくることらしい。そんなのDXでも何でもないからな。究極の部分最適を生み出したエンドユーザーコンピューティング(EUC)の悪夢の再来だぞ。
と厳しい。
確かに「現場のお役立ちデジタルツール」を作るのはDXではない。
DXはデジタライゼーションではないから。
言葉遊びでは無く、改革と改善の違いだろう。
改善は現状の肯定するか、改革は現状を肯定しないから、全く違う。
ある作業や業務の目的が妥当だとすると、作業方法を効率化すれば良い。
しかし、現在自分達が置かれた環境を考えて、その作業や業務の目的を考えることから始めると、業務や作業が変わる。
つまり、作業の組み合わせを変えたり、作業を省略したり、作業を自動化したり、他の作業で置き換えたりして、効率的な業務ができるようにする。
改革を説明すると、多くの人は総論賛成だ。
ところが、
- 省略する作業を担当していた人は、それまでの経験やノウハウが使えなくなる。
- 作業を組み替えると、経験したことがない作業を覚えなければならなくなる。
- 業務を効率化すると、業務が増えることもある。
改革を机上で考える経営層は、気軽に改革しようとする。 また、会社のメリットを考えて、改革の痛みは負担すべきと言う。
それは、正論だが...
現場は改革に対応するのは負担が大きいから、個人にメリットが少ないと考えると、影に日向に改革に反対する。
DX以前の業務改革
例えば、窓を背にした席に座っていて、部下が決裁持ってきたら、口頭で説明させ(説明用の資料を別に作らせて)た挙句、合理的な意思決定ではなくハンコの数を見てハンコを押すという作業を担当していた管理職がいたとする。
経営層は、意思決定のスピードを速くしようと電子決済を導入しようとする。
計画段階では多くの人は総論賛成だ。
ところが、導入段階になると、どうしてもハンコが欲しいと言い出す輩が出てくる。
需要あるところに供給はあるもので、陰影を画像として貼り付けるアプリが販売されていたりする。しかもハンコを傾ける機能付きだったりする。
それでも、対面でないと決裁できない人はいて、電子決裁のフローを始める前に口頭で説明する謎ルールができたりする。
明らかに、フローは複雑になっているし、意思決定は速くなっていない。
この例くらい、失敗すればデジタライゼーションだけでは問題は解決しないことがわかる。
「草の根DX」
ところが、謎ルールを改革しようとしなければ、作業レベルで効率化できることは多い。
昔(と行っても15年くらい前)、都内の電車移動でも出張の決済が必要だった。
A4のフォーマットに必要事項を記入して印刷し、関係者がハンコを押すという出張伺いのフローが必要だった。もちろん、フォーマットは一太郎で作ってあって、必要事項を入力したファイルは、ルールに従ってファイル名をつけてNASの特定のフォルダに保存するという謎ルールがあった。
このフローの無駄を挙げるとキリがないけれど、それぞれの担当が深く考えないで、それぞれのの都合をユーザに強いていたのだ。
印刷物にハンコを押すのに、なぜ一太郎でなければならないかというと、担当が一太郎が好き(他のアプリを使おうとしない)という切実な理由からだ。
最も大きな問題は、多くの人が、このフローの省力化・合理化が必要と感じていないことだった。
省力化が必要と思っていない人に、作業フローを省力化・合理化するように説得するのはとても難しい。
へたれなので合理化は諦めて、行き先を選択すると、自動的に、ファイル作成、保存、印刷するスクリプトを作って使っていた。
出張する人の作業だけ省力化したのだ。
これは、木村岳史氏のおっしゃる「草の根DX」だろう。
残念なことに、関係者を説得する労力より、自分作業を省力化する労力の方が遥かに少ないのだ。
フローを合理化・省略化すための仕組みに変えるときに、最も大きな労力は必要性を理解してもらうことだ。
DXで「草の根DX」は減るのか?
木村岳史氏は「草の根DX」はDXではないとおっしゃる。それは正しい。
DXで最も労力が必要なのは、仕組みを作ることではなく、業務と業務フローの見直し、関係者への説明だ。
今時のノーコード、ローコード開発で仕組みを作る労力は少なくなる。
しかし、最難関の関係者に説明し理解を得る労力は減らない。
だから、「草の根DX」は減らないと思う。
もっと憂慮すべきは、
業務も業務フローも変えたくない、一太郎以外使いたくないという人たちが、コンサルに感化されたり、経営層の圧力に屈してDXが必要と言い始めることだ。(AIを導入しようというのも同じかも)
電子決裁の例のように、労力が増える。
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