仕事がなくなる! <その成功例に普遍性はあるのか?>
仕事がなくなる! 丹羽宇一郎 株式会社幻冬舎
長く生きていると数えきれないくらいの失敗を経験する。それは成功の数とは比較にならないくらい多い。
成功者は、失敗を分類、分析、一般化して失敗しないようにしているのではないだろうか。
多くの失敗を試行錯誤で克服して成功した場合、多くの失敗と1回の成功を経験することになる。
他人の参考になるのは、多くの失敗と失敗を克服した過程だ。
ところが、成功者は、自分に特有のしかも少ない経験を、一般論化して普遍性があるかのように語りがちだ。
しかも、何十年も前の成功体験が環境が変わった現在でも普遍性があるかのように語ってしまう。
そして、多くの人は成功者のわずかな成功例に着目しがちだ。
それが、数少ない成功例が巧みに一般論化してあっても参考にしてしまう。
人は、辛い思いをした失敗体験より、成功体験を語りたがるものだから、受け取る側が取捨選択しなければならないのだろう。
この本で引っかかったのは、
今後は、マニュアルに沿ってなされる仕事はすべて、AIが行うようになります。どれだけ仕事に自分の気持ちを込められるか、どうすれば顧客を感動させられるか。そのようなことを真剣に考えて、主体的に取り組まない限り、今の仕事を続けることはできなくなるでしょう。
脅すつもりはありませんが、
の部分。
直感的には正しいような気もするが、よく考えると、昭和の高度成長時代に一般的だった、終身雇用と所得は増加するという前提に依存しているような気がする。
話は変わるが、
かなり前に、マクドナルドは「笑顔0円」というCMを流していた。
自分の行動様式を思い出してみると、笑顔の店員さんがいる店を選ぶ可能性はかなり高い。
つまり、対面での接客では、笑顔はかなりの価値があると思う。
ところが、その価値の対価は支払われないのである。
笑顔がすてきなマクドナルドのバイトさんの方が時給がが高いという噂は聞いたことがない。
マクドナルドに限ったことではなく、日本の社会全体に言えることだが、目に見えない価値に対価を支払わない。
「お客さまは神様」とか「お値段以上」などのスローガンはほぼ、社員の目に見えない価値を売り物にしながら、その価値に対価を支払っていない。
では、従業員はなぜ対価が支払われない価値を提供してきたのだろうか?
それは、昔は終身雇用と所得は増加するという社会背景があったからだろう。
おなじ職場で長く働けば、「笑顔」の対価を回収することができるだろう。
しかも、昭和の高度成長時代、バブルの時代には、評価によらず給料が増えていた。
つまり、
古き良き時代には、直ちに「笑顔」の対価が支払われなくても、長期的に回収することができたのだ。
ところが、浅ましい経営者は、それを短期雇用の従業員に求めるようになった。
長期雇用なら対価が回収できる価値を短期雇用に求めるのは、搾取だ。
また、
その人にとってコスパやタイパはよくなくとも、達成感や満足度が高く、社会の役に立つことは、いくらでもあるからです
とタイパやコスパに拘るべきでないとおっしゃる。
確かに、古き良き時代にはタイパやコスパに拘らない生き方ができた。
しかし、古き良き時代社会背景を前提にした、成功例が、AI時代に適用できるのだろうか?
成功した経営者は、
若い人、雇用される人に対して、今の時代でも普遍性がある成功の秘訣を伝えてほしい。
古き良き時代社会背景を前提にした働き方で幸福になると伝えるのはミスリードだ。
また、
現役の経営者にむけて、時代背景が変わっても、目に見えない価値に対価が支払われる社会、タイパやコスパにこだわらない働き方ができる社会、を実現する極意を伝えてほしい。
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