誇り高い技術者になろう
誇り高い技術者になろう 工学倫理のススメ 黒田光太郎・戸田山和久・伊勢田哲治 編 名古屋大学出版会
工学系の学生用に書かれた工学倫理の教科書である。
既に技術者として働いていて具体的な問題に{悩んでいる|悩んだことがある}人にとっては、物足りないと感じるかもしれない。
『誇り高い技術者になろう』に関する『科学・社会・人間』誌上の討論 も読むと良い。
技術者として社会に出る前に工業倫理について考えることは重要である。
最近は学校教育において倫理や道徳を満足に教えていないので、いきなり工業倫理が理解できるか心配になるところではある。
大部分は工業製品を作ることについて書かれているが、自分が持つ技術力を行使することと読み替えればIT関係の技術者についても同様の倫理観が求められることは容易に理解できるであろう。
自分の技術力を行使した結果が倫理的に許されるか否かを考えることは非常に重要である。職に就き指示されたことを一生懸命こなす半人前の期間を過ぎて一人前になって自分の頭で考えるようになると、社会的問題にならないまでも倫理的に許されるのか考える機会が訪れる。
科学者、技術者は自分が持つ知識、技術を機会があれば使いたいと思っている。(思わない者は技術者ではない。)
倫理的な問題は容易に解決できず悩むことも多い。そのとき、外部から何か動機を与えてやると、倫理的検討が不十分なまま知識・技術を行使してしまう。
これは、科学者、技術者の性である。
知識・技術を行使したい方向へバイアスがかかっているから、外部からの動機は必ずしも正当なものでなくても良く、例えば、マンハッタン計画においては自民族を救うであり、地下鉄サリンにおけるポアである。
マンハッタン計画において、ボーア、オッペンハイマー、アインシュタイン、ファイマンらノーベル賞を受賞した科学者でも、彼らの知識を大量破壊兵器の製造に使用し、それを使用したことによる結果についての倫理的な考慮を怠っている。 倫理的な問題であるから絶対的な正解はないのであろう。しかし、自国民を救う、自民族を救うという大義があったとしても、非戦闘者を大量に抹殺することの倫理的是非について、大量破壊兵器の製造を可能にする知識を持つ彼らは検討すべきであった。
一介の技術者が直面する問題はこれほど大きくないかもしれないが、問題に直面する前に工業倫理について考えておくと、問題に直面した際に偏った思考に陥らないで済む、また、不純な動機で誘導される危険性も減ると思う。
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