顧客
公務員や役所、公共機関のマネジメントにおいて、公共サービスの対象である市民を「顧客」や「お客様」と称する文献が多い。最近読んだ、「期待される役所へ」(元吉由紀子、ぎょうせい)にも、岸和田市人材育成基本方針にもその記述がある。
「顧客」は広辞苑によると
おとくいの客
で、「客」は
商売で料金を払う側の人
である。「顧客」には商品やサービスを提供する人に対して金を支払う人という概念があるようだ。(customer の訳語か)
公務員と市民との関係を、行政サービスの対価として、金を払う人と金を貰う人ととらえるのは違和感がある。
本来、公務員と市民の関係は金を挟んで対極にある存在ではないと思う。
市民の共同体としての自治体、国家が存在していて、その共同体の事務を行うのが公務員であるから、当然公務員も市民の一部である。つまり公務員も市民も同じ側にいる。
(地方自治体の職員で、勤務する地方自治体の管轄外に居住している人もいるが、それは措いておいて)
企業活動の管理手法としてのマネジメントを役所の経営に応用した際に、企業VS顧客の構図をそのまま持ち込んだのではないかと思う。
ドラッカー的には、顧客は、「企業が欲求を満足させるべき対象」である。
欲求を満足させること(サービス)の対価としての料金があり、料金からサービスに必要なコストを引いたものが利益である。そして、ドラッカーは、企業にとって利益は目的ではなく、企業存続の条件だという。
つまり、ドラッカーは「customer」を「物やサービスに金を払う人」ではなく単に「サービス提供の対象」の意味で使っているのではないだろうか。
役所の人が、欧米流のマネジメントを役所の経営に適用したときに「顧客」の定義を「サービスを提供する対象」から「金(税金)を払う人」に誤解したのではないだろうか。
市民は共同体に金(税金)を何かの対価として支払う存在ではない。
税金は共同体を運営の原資として、共同体の構成員が財を供出する行為であろう。 であれば、税金は共同体サービスの対価ではない。
市民は共同体サービスを受けるために税金を支払っているのではなく、共同体がサービスを提供するために、共同体を構成する市民が税金を提供していると考えるべきであろう。
ならば、市民から提供された税金を使う者(公務員)はサービスを売っている人ではなくサービスを提供している人であるから、金を払ってサービスを買う人VS金を貰ってサービスを提供している人 = 客VS企業・商店 という構図ではない。
重要なことは、 公的サービスを受ける人VS公的サービスを提供する人 でなければならないということ。この構図においては「お客様」はありえない。
商売以外の場面で「お客」を使うと「ネギを背負ってやって来る奴」という意味になる。
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余談だが、役人に「お客様」呼ばわりされるときの心地悪さは、例えるなら、葬式でお経をあげてもらったお坊さんに「またのご利用をお待ちしております」と言われたようなものだと思う。
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