海軍技術研究所
海軍技術研究所 エレクトロニクス王国の先駆者たち 中川靖造 講談社
太平洋戦争時のレーダー(電探)技術にフォーカスして、当時術者を多く抱えていた海軍の技術開発の実態を書いた本。
ウチの歴史を紐解くと、戦後組織を立ち上げる際に、海軍上がりの人を大量に採用したそうだ。自分は、その人達が大量退職したときの大量採用時期に採用されたので、新人の頃には海軍上がりの大先輩から「5分前集合の精神」はよく聞かされた。
目先のハード開発に追われ、ソフトの取り組みを怠った〝とがめ〟が、いまになって表面化したわけだ。
ハードにこだわって、システムを作らないなど、技術者のマネジメントをしていると、気づく点(身につまされる点)が沢山ある。
戦後に組織ができて 90年になろうようとしている。扱う技術は大きく変わっているが、この本に書いてある海軍の悪しき側面が尾を引いていると思う。組織の風土は、そんなに簡単に変わらないということだろう。
戦後若い研究者が気づいた、日本に欠けていたものは
- 計画性の欠如、
- 高度な専門技術者の不足、
- 研究推進のマネジメントの不在、
- 量産技術の未熟、
- 技術の芽を正しく評価する評価者がいなかった、
だという。
この本は1990 年に出版されもので、日米貿易摩擦が問題になっていた時期だ。
技術封鎖という最悪の環境の下で最先端技術の開発に取り組んだ海軍の研究開発方式は、良かれ悪しかれ、今後の日本企業の研究開発を考える上で、何かヒントを与えてくれるのではないだろうか。
と著者の中川靖造氏は言う。この本が出版されて30年が過ぎても、変わっていないと思う。
太平洋戦は航空機による戦力が重要になっていた。戦艦でも航空機でも戦闘では相手を早く発見した方が圧倒的に有利だ。レーダーを使うと目視で確認できない遠方でも敵を発見できるから、レーダーの性能は戦艦や戦闘機の性能以上に戦力に影響する。 つまり、技術力が戦力に直結するということだ。
技術力は理論と理論を現実のものにする技能の総称だ。
日本人は、理学と工学を区別しない。
理学は原理・法則を明らかにする学問だから、実用性は問わない。一方、工学は実学だから、実用にならなけれは意味はない。
当時の日本(今でも)は、この辺りの整理が未熟だったのではないだろうか。
理学の研究者に実用性を求めるのは無理がある。しかし、工学も理論が無ければ、実用にならないし、用兵者の言う「武人の蕃用」は無理だ。
だから、研究者と技術者のマネジメントが必要になる。つまり、研究者の知見を技術者が兵器として実用化し運用者を訓練、戦闘に有利になるようにしなければならない。
必要であれば「武人の蕃用」にこだわらず運用でカバーして、後から改良することも必要だ。レーダのように戦局を左右しかねない技術ならなおさらだろう。(その点ではイギリスのマネジメントは大したものだ)
つまり、太平洋戦後当時の海軍には、研究者や技術者の能力を成果につなげられるマネジャが不足していたということだ。海軍のような官僚組織ではマネジメントは無理だったのかもしれない。
戦争が終わって70年が過ぎたが、自分の周りを見ると、研究者、技術者のマネジメントは満足とは言えない。官僚的だからなあ~ ウチは未だ日本帝国海軍と同じか。
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