秋月電子が火事になったという話ではない。
秋月電子の店員の対応が悪かったというツイートが炎上したらしい。Twitterの投稿もまとめサイトも削除されている。魚拓が部分的に残っていたので読んでみた。
店員の対応に対する苦情はよくあることだ。電子部品販売店に限っても昔からよくある話題だ。 秋月電子通商 <ワクワク感が無くなった気がする> (2016/05/18) でも書いた。 ただ、最近は炎上してしまう。
3つの観点から考えてみた。結論は、
- 不毛な問答を回避するのは技術ではなくヒューマンスキルである。
- 秋月電子は、素人という顧客を開拓したが、対応は玄人を想定している。
- 電子部品販売店に電気回路の妥当性の判断、部品の選択、部品選択の妥当性の判断は委ねられない。
〇質問対応
質問に対して回答が得られないことはよくある。たいていは双方が想定範囲に入っていないことが原因だ。
質問する人も、回答する人も、想定している相手の範囲がある。双方とも、少し話すと相手が自分の想定範囲内かどうかわかるはずだ。
秋月電子のページに
(株)秋月電子通商 店舗ご利用規程 (http://akizukidenshi.com/pdf/contents/akiba/shop_usepolicy.pdf)
があって、その中の「技術的なお問い合わせ」の項目を読むと
- 技術的な問合せは商品の使用想定範囲内に限ること
- 店員が技術的質問への回答は参考情報であり、その使用は客が責任を持つこと
と書いてある。つまり、秋月の店員はこのスタンスで回答していたのだろう。
回路図を書いてみせて、どんな部品を使えばよいか教えろと言われると、売る側は困ってしまう。下手に売って後腐れがあるから売りたくないのが本音だろう。小商いで後々までクレーム対応するのは割が合わない。
ところが質問した側は、秋月電子に部品の販売だけでなくソリューションの提供までを想定していたのだろう。しかし、それは無理というものだ。ソリューションの提供ができる人材を雇っていたのでは採算が取れない。
重要なことは、質問するときに相手が自分の想定内に入っているのか確認すること、そして、自分が相手の想定内に入っているのか確認すること。双方が想定内に入っていないなら、不毛な問答になること必至だ。
不毛な問答を避けるのは技術ではなくヒューマンスキルによるところが大きい。今回の件は、双方が不毛な問答を避けるヒューマンスキルが無かったことが一因ではないだろうか。
〇秋月電子の位置づけ
昔から秋葉原の部品屋で買い物をしていると、相談できる店(人)が分かってくるものだ。
昔、秋月電子は質問してはいけない店だった。現品限りの商品も多く「有る物はあるけど無い物は無い」そういう店だったし、昔の部品屋は業界人かマニアを相手にしていたから、質問しなければならないような客は想定していなかったのだろう。
今や秋月電子は正規品を安価に提供する店になった感がある。(アヤシさが無くなった) そして、電子工作の入門雑誌などで紹介されることも多く、トラ技やCQ誌だけでなく広告を掲載している雑誌も増えた。電子工作の普及の一端を担っていると言っても過言ではないだろう。
とすると、当然素人も来店するし、知識の足りない人も来店する。つまり、秋月電子が想定しない人も来店する。その状態を招いたのは他でもない秋月電子の戦略だ。
秋月電子は、玄人相手の商売が普通だった秋葉原で、素人という新しい顧客を開拓した。しかし、客に対する対応は玄人相手のままのようだ。このギャップが今回の問題の一因ではないだろうか。
〇エンジニア
Twitterへの投稿のタイトルが「つばさ@エンジニア」になっていて、この部分に反応した人も多かったようだ。投稿の技術的な内容が「エンジニア」のやり取りには思えないと思った人は多いようだ。
日本では、技術者、技能者から技能系作業者までエンジニアと称するからややこしい。 「エンジニア、テクノロジスト、テクニシャン」(2016/08/02) 最近はアートと技術が近づいてきた。(Arduinoの存在は大きい) アートと技術の双方に明るい人は貴重だ。ところが、アート界隈ではエンジニアと名乗り、技術界隈ではアーティストと名乗る人は厄介だ。
また、エンジニア(技術者)とテクニシャン(技能者)を分けて考える人も少ない。技術者は知識ベース、技能者はスキルベースで両方の能力を持っている人材は少ないから、製造の現場では設計と製造は分けるのが普通だ。
この件の場合、投稿者は電子回路の妥当性とそれを実現するための実装に関する質問をしたようだ。しかし、それに応えられる人は少ない。普通に考えれば部品屋のレジにはいないだろう。
エンジニア(技術者)を名乗るなら電気回路の妥当性は判断できるだろう。そして、必要な部品の仕様を示せるだろう。今時、テクニシャン(技能者)でなくても、ネットを使うとその仕様に該当する製品の型番くらいは調べることができる。
秋月電子の店員は、示した型番の部品の在庫があるかどうかの知識は当然ある。
「エンジニア」を名乗りながら、すべてを店員に委ねたのが、炎上した一因かもしれない。
〇まとめ
- 不毛な問答を回避するのは技術ではなくヒューマンスキルである。
- 秋月電子は、素人という顧客を開拓したが、対応は玄人を想定している。
- 電子部品販売店に電気回路の妥当性の判断、部品の選択、部品選択の妥当性の判断は委ねられない。
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