中間管理職の育成
あなたの会社では「中間管理職の育成」を一日こっきりの「神隠し研修」に委ねていませんか? 立教大学 中原淳研究室 (2020/2/3)
研修以前に「変な奴」を許容する組織風土が必要だ。
中原淳氏は
1日の研修にでたら、「イケてない管理職」の「目」キラキラとしたものと変わり、「よい管理職になること」は、まずないのです。そんな「神隠し研修」はありません。
とおっしゃる。これは正しい。
昔、中間管理職研修を受けたとき講師の先生が「この研修で心を改めても、自分の職場で行動を変えてはいけない」とおっしゃった。
部下はせっかく上司に適応しているのに、上司が研修で心を改めて行動を変えると、部下は適応し直さなければならない。これは大きなストレスになるので行動を変えてはいけないのだと。
中原淳氏は、管理職の育成には、「挑戦的な仕事」と「フィードバック」、給与制度・評価制度の改善が必要だとおっしゃる。もう少し抽象化すると、
- 能力の獲得・向上方法と
- 動機付け
だろう。
能力の獲得・向上方法について組織的に実施すべきことはおっしゃるとおりだ。
難しいのは「動機付け」だ。中間管理職に限らず、成長しようと思わなければ、どんな研修やサポートを受けても成長しない。だから、中間管理職自身が成長しようと思う動機付けが重要になる。
中原淳氏は、中間管理職が成長しようとする動機付けとして、給与制度・評価制度の改善を挙げておられる。これらは、欠乏動機に働きかける方法だ。金銭は低い階層の欲求だから色々な人に使える。おそらく、この記事が想定している読者は、中間管理職が金銭的な欲求を持っている組織の経営者なのだろう。
では、古い年功序列の組織ではどうか?
年功序列の組織でも、金銭的な欲求はある。特に若い世代には金銭的欲求がある。ところが、中間管理職くらいになると、金銭的欲求を諦める。マズローの5段階欲求説によると、高次の欲求が生まれるのは、低次の欲求を満足した時と低次の欲求を諦めた時らしい。つまり、年功序列を受け入れると、金銭的欲求を諦めるのでポストの欲求が生まれてくる。
年功序列型の組織でしばらく働くと、成果や能力が給与に反映されないから、金銭的欲求を諦めてポストの欲求を持つようになる。だから、評価制度を改善して成果や能力がポストに反映されるようになれば、動機付けになるだろう。
しかしである、
年功序列型の組織では、ポストは成果や能力に関係なく与えられる。年功序列型の組織ではしばらく働くと、このルールの縛りから逃れられないことに気づくから、ポストでは動機付けにならない。
成果は給与に反映し、能力はポストに反映するのが良いとされている。ところが、この方法は年功序列と相容れない。年功序列型の組織の前提は長期間働いた者の方が能力が高く成果をあげることが前提になっているからである。今時、この前提が正しいのは、伝統芸能くらいだけど。
つまり、年功序列型の組織では、成長の動機付けができない。
だから、組織(管理職)は、1日の神隠し研修で中間管理職の能力が向上する[こと]にしたいと思う。研修で能力が向上しないのは個人の資質の問題にできるからだ。こうして、神隠し研修がはびこってしまうのだろう。
では、諦めるしかないのか?
方法はある。低次の欲求を諦めると高次の欲求が生まれるから、承認欲求さえも諦める者がいれば、自己実現欲求が生まれる。自己実現欲求は欠乏欲求によらない成長動機だからムチもアメも必要無い。
成長動機を持った者に対して、「挑戦的な仕事」と「フィードバック」を与えると中間管理職以上の能力を持つことができるだろう。ところが、金銭的、ポスト的な欠乏欲求を諦めて、自己実現欲求を持っている者は、組織の中では、いわゆる「変な奴」だ。だから組織的に育成できない。自然発生した「変な奴」に機会を与えて、管理職に必要な能力を獲得・向上させて、しかるべきポストに登用すれば組織が変わるかもしれない。
「変な奴」が成長動機を満足する仕事を与えられるかにかかっている。少なくとも「変な奴」を許容する組織風土は必要だ。
年功序列型の組織では、これが一番難しかったりする。
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